イチジク/Fig

イサファクラシュ村

エーゲ海に沿う街イズミールから中世のような街を抜け、辿りつくのは「イチジク」の産地イサファクラシュ村だ。

ここの農家のご主人Ismailさんはこの地で7歳からイチジクを作り続ける。丸い太鼓腹の上でようやく手を組み、それがほどけそうになりながらいつでもニコニコしている姿が実に印象的だ。 4人の働き盛りの息子とお嫁さんにお母さんという何とも幸せそうなイチジク一家だ。

ここトルコでは家族をとても大切にする。何とはない仕草にその愛情深さを垣間見ることができる。客人に対するホスピタリティも並みではない。出されたものの半分も食べることが出来ない。何も言わなければ次から次にどんどん出てくる。気持ちでもモノでも人に与えることに一切の労を厭わない。

さすがに恐縮するが、そこに何の作為も感じられないので気が付くととても豊かな気持ちになっている。

イチジクの収穫は8月。急峻な斜面を登っていく。Ismailさんは太鼓腹で足元が見えないはずなのにさすがに速い。嬉しそうにイチジクの実を指さす様子にこっちも嬉しくなる。木から直接もぎ取っては手で渡してくれる。生イチジクは、食感がクセになる。美味しいと言うと次々にもぎ取ってはこっちへくれる。お腹がいっぱいだと言うと満足そうに笑う。

収穫には30~40年育った木がいいと言う。木と木の間隔があり過ぎて効率が悪いように思えたが、それが丁度いいらしい。枝が重なることがなく十分に陽光を受けられるからそれで良いのだと言う。また土地が痩せないように、持続的に収穫できるようにしているのだろう。

北風が吹くと実が割れて化け物のような姿になる。それを指さしまた笑う。腐ったイチジクを吊るしているのを見かけたが、虫を寄せ、種を運ばせ、自然に繁殖させるのだという。農薬や化学肥料は勿論使わないし、水やりもしない。「雨だけで十分」だそうだ。

集落の中心にはカフェ(寄合所)があり、そこに男達が集まって話している。カメラを向けると誰も拒まずに満面の笑顔を向けてくれる。多分毎日同じような話をしているのかもしれないが、実に楽しそうに見える。

石造りやレンガ造りの家々からは煙が立ち上り、女達の出入りする姿がよく見え、子供達も各々遊んだり、家事を手伝ったりしている。

そのうちこの一帯の納屋を見て回っているというおばあちゃんが出てきて一生懸命に話しかけてくる。深い皺によく通る大きな声。「ありがとう」と言うと顔がほころんで抱きつきながら、シワクチャの顔にトルコ語で何やら言っている。

さっぱり解らないがそれがいい言葉であることに疑いの余地はない。

筆:佐々木敏行