アッサルの塩 From Djibouti

アッサルの塩

東アフリカの紅海沿いに位置する小さな国ジブティ共和国。

「猿の惑星」のロケ地といえば想像しやすいだろうか。チャールトン・ヘストンが両膝を落とし、点を仰ぎ「(此処は人類滅亡後の)地球だったのか…」と嘆く、あのラストの光景は強烈だった。
国土の大半が土と岩の沙漠で荒涼としている。終末感たっぷりだ。さらに世界で最も暑い場所とも謂われ、非公式ながら70度を超えたこともあるという。

あまりの熱さに地表面の岩が割れるほどだ。この国には季節が夏と真夏しかないらしい。暑い国はいくらでもあるが、涼しくならない国は滅多にない。

首都ジブティを出て海に沿うように西へ。

向かうは世界最高濃度の塩湖「LAKE ASSAL」。

道すがら岩を積んだ跡が点々とあるのを目にする。遊牧民の住まいのようだ。草木などほとんど無く、枯れた井戸が其処此処に点在している。真っ蒼なタジョーラ湾に浮かぶ火山島を右に過ごし、程なくすると同行の1人が「Caravan!」と叫んだ。

見るとラクダの隊商が正面から向かってくる。2,000年来続く「伝統の道」を往くキャメル・キャラヴァンは勇壮な姿を見せながら悠々と通り過ぎてゆく。暑すぎて話しかけても答えないのは言うまでもない。

それから少し行くとまた同行の一人が「Hot Spring!」と叫ぶ。

本当に温泉だ。しかもかなり熱い。辺り一面沙漠という温泉天国日本でも見られない借景に湧き出す高温泉は、勿論源泉かけ流しで加温・加水はない。それでも気温も湯温も熱すぎて湯治客などいるはずもない。

程なく塩の選別工場に着くやいなや30人ほどの労働者諸君に囲まれる。

なにやら大声で訴えている。同行の御仁はここの社長でしかも政府の官房長官でもある。彼に何か訴えているようだ。どうやら工場の水がでないらしい。

暑い!とか給料安い!とかも言っているかもしれないが、必死の陳情も虚しく官房長官敢え無くスルー。

この国では珍しいことではない。

やがて眼下には沙漠にはめ込んだエメラルドのように蒼く、美しいアッサル湖が姿を現す。

息を呑むほどに美しい。干潟は一面真っ白な塩。砂でも土でも岩でもない。塩だ。しかも玉状の。

ここでは自然の力のみで丸い玉状の塩が結晶する。11月頃から次第に大きくなり、5月頃に10mmを超えるほどになりそれからまた次第に小さくなっていき、また翌年の11月から大きくなり始める。これを人知れず、遥か昔から、延々と繰り返すのである。

塩浜に降り立つとそこには轟々という風の音と打ち寄せる波の音しか聞こえず、生き物の気配はまるでない。

海抜-153m。アフリカ大陸で標高が最も低い。塩分濃度は39.8%。死海の33%よりも更に濃い。

奇声をあげながら湖に飛び込むと体がプカリと浮かぶ。横になっても直立してもどういう格好でもおもしろいように浮かぶ。

死海の泥は有名だが、アッサル湖は岸から湖底に至るまですべてが塩。

塩浜では官房長官と塩に埋もれてデトックス。官房長官は少し小さくなったようにみえたが、僕がまるで変わらないのは毒素がないということに他ならない。
実に日頃の行いが物を言うのである。

筆:佐々木敏行